GODZILLA 星を喰う者

静野監督 × 瀬下監督 × 虚淵玄
『三部作完結記念』特別インタビュー

最終章のポスターは、ゴジラとギドラ、ハルオとメトフィエスが描かれています。このビジュアルに第3章が象徴されていると考えていいのでしょうか?
ポスター通りの内容になるのでしょうか。

その通りです。ポスターは造形監督の片塰(満則)さんに作っていただきましたが、宗教画として伝統的な構図である「ピエタ」を引用しています。最終章の場面設計の際に、メトフィエスとハルオが対峙する丘越しに、ゴジラとギドラの戦いが背景になるようにしました。望遠レンズで構図すると、メトフィエスとハルオ、ゴジラとギドラがひとつのフレームに収まるようにです。静野さん覚えていますか?

覚えてます、覚えてます。

その本編のイメージを生かしつつ、ポスターがピエタ的になるように、連動させたんですね。

でも最終章のクライマックスは、だからこそ見せ方が難しかったですよね。

難しかったですね。

ゴジラとギドラという怪獣のバトルと、ハルオとメトフィエスのやりとりという2つのシーンを行き来させながら、リンクしている感じにどう見せていくか。その調整は難しいところでした。最終的には、服部隆之さんの音楽が演出意図を汲んでくださって、音楽がつくことで映像が目指したものが一層明確になる感じになりました。

瀬下さんが、ピエタっておっしゃってましたけれど、最初のポスター案はもっと大胆でしたよね。今のポスターは、ハルオがメトフィエスに抱えられてますが……。

そう、一番最初の案では、ゴジラがギドラに抱えられていたんですよ。でも、それだとゴジラがやられすぎだろう(笑)ということで今の形になりました。

でも、こうやってクライマックスまできてみると、エックス星人――じゃなくて、エクシフ(笑)――にサングラスをかけさせなくてよかったね。
(注:エクシフのイメージソースは『怪獣大戦争』で初登場したX星人。X星人は細いリング状のサングラスを着用している)。

心の底からそう思いますね。いや、嫌いじゃないんですが(笑)。

実は僕は、第1章ぐらいまでは、「結局サングラスなしかぁ」、みたいな未練があったんです(笑)。今となっては、静野さんに反対されていてよかったなと。

(笑)。

3部作全体を振り返ってみて、苦労したところを挙げるとしたらどこになりますか?

第2章は構成を変えなくてはいけなかった部分があったのを、かなり現場で切ったり貼ったりして、それを虚淵さんに最後にまた監修していただいたんですが、あれは僕らもそうですが、虚淵さんも悩まれたんじゃないかと思います。

まあ、第2章は第2章で大変ではあったんですけど、今回のプロジェクトは、アウトプットの形は途中でいろいろ変わっても、「何を描くか」という点は最後まで一貫してぶれなかったんです。そういう意味ではとても助かりました。

その「何を描くか」という要素が集約されているのがハルオということになるんでしょうか。

ハルオという主人公は、行動原理や育ってきた環境をを含め、観客の方とは全く違うキャラクターです。自分としてもそこを納得していくのに時間がかかりました。そういうキャラクターを主人公として描くというのは、今回、かなりの挑戦でした。そこに虚淵さんが、最後までシノプシスを組み上げてくださった時に、「ああ、これならハルオをちゃんと描くことができそうだ」と思えたんです。

そうですね。僕も、どちらかというと好きな主人公はシンプルでストレートなキャラクターですから。ハルオという主人公は、受容しにくい面が多々ありました。ただシノプシスやプロットを経て、脚本が出来上がっていく過程で、「ハルオとは何者なのか」という確信を得ることができたんです。彼こそ、神話における英雄なんだと、あらためて彼の魅力に僕は引き込まれていきました。

虚淵さんはメトフィエスをどんなキャラクターだと思って書かれていたのでしょうか。

あれは、まさしく脚本家であり演出家ですね。世界に対して脚本を書き、現実そのものを物語として演出しようとしている人。そういう意味では、現実に対してメタな視点を持っている人なんです。そうでありながら同時にその現実の中で生きているという、ちょっと怖い人ですよね。

ハルオはメトフィエスの“舞台”でも主役なんですね。

そうです。メトフィエスは、その舞台で準主役を演じながら、主演が思い通りの方向に進むように、それとなくダメ出しをしている。ハルオは、それに素直に従っているわけじゃないんだけれど、メトフィエスとしては、いい演技をしているからつい通しちゃうんです。そこは自分がアドリブで対応したりして。

それは演出家にありがちですね(笑)。

ありがちです。キャラクターの話なのに、なぜか耳が痛い(笑)。

今回の3部作は「人間ドラマを描いてほしい」というオーダーが最初にあったそうですね。

最初に東宝の方からリクエストがあった時に言われたのが「いわゆる“怪獣プロレス”でないものを」というオーダーだったんです。ドラマを描いてほしい、と。僕は「『FINAL WARS』みたいにしましょう!」って言ったら速攻「そっちではなく……」って言われました(笑)。

正反対ですからね(笑)。でも、やっぱりそっちも好きですけど…(笑)。

ただ、確かに怪獣プロレスは、特撮でやるのだからおもしろいのであって、アニメでそれをやっても……というのは確かなことで。まあ、最終章の脚本を執筆している時も、ハルオとメトフィエスが拳で勝負するというバカなアイデアも出したんですよ(笑)。

(笑)。

(笑)。

ハルオが構えていると、メトフィエスも服を脱ぎすてるんですよ。するとムキムキで「鍛えているのは数学だけと思ったか」と構えるという(笑)。即座に「やめましょう」って言われて、「そうですね」と(笑)。

(笑)。

(笑)。

でも、第2章も、静野さんの冷静な意見がなかったら、メカゴジラシティが飛び立って巨大メカゴジラになるとか、バルチャーが3機合体するとか、そういうものに、きっとなってましたよね(笑)。

メカゴジラシティの砲台も、最初は特撮のほうのメカゴジラの手の形にして、指先からいろいろ発射するようにしましょう、とかいって盛り上がってましたしね。

そうそう、そんなでしたね。静野さんはぽかんとされてましたね(笑)。

(笑)。

いよいよ『GODZILLA』も完結となります。

3DCGは作業が進むごとに映像が本当に劇的に変わっていくんですが、ポリゴン・ピクチュアズのスタッフのおかげで、とても美しい映像として完成しそうなところまで来ることができました。劇場で楽しんでいただければうれしいです。

概ね静野さんのおっしゃった通りです。付け加えるなら、僕はこの3部作が締めくくりを迎えるのがとても寂しいです。このままの勢いで前日譚を描いた小説『GODZILLA 怪獣黙示録』と『GODZILLA プロジェクト・メカゴジラ』も映像化したいぐらいです(笑)。

(笑)。脚本って、作品の骨組みなので、映像化されることで、ようやくガワがついた“建物”になるんです。今回の『GODZILLA』三部作は脚本の後に、本当に長い工程を経た上で、期待以上のものが出来上がってきていて、描きたいことがブレなかったことと重ね合わせて、感無量ですね。

撮影:曽田英介

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